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きっかけは一枚の写真だった。 それが全てだったのか、それとも原因の一つに過ぎなかったのか……それは今になっても分からない。 端から見てるヤツらには馬鹿な行為としか映らないだろうし、俺もそう思ったこともあったさ。 ……でも、あの時の俺たちは何も間違ってはいなかったと思う。 ……それだけは譲れない事実なんだ。 ある日の昼休み。俺たちの学校の中庭でそれは始まった。 「……おぉ」 「……これは……」 「……な?似てるだろ?」 ……確かに似てる。 「まさか、本人じゃないよな?これ」 それは谷口がコンビニで買ってきた漫画雑誌に掲載されていた。 「まさか。あの涼宮さんですよ?」 よくある、二回に一回は水着姿の女の人が表紙を飾るような漫画雑誌だ。 「……だな。例え借金まみれになっても、ハルヒがこの手の仕事をする姿は想像出来ん」 そこには、こんな文字が踊っていた。 『現役女子高生・鈴峰晴美~強気娘に恋をしよう~』 「にしても、似てるよなぁ……このグラビアアイドルと涼宮」 谷口がそう言うのも無理はない。正直言って、パッと見せられた時は俺でも信じたほどだ。 この手のグラビアにありがちな媚びた笑顔ではなく、相手を挑発するような不敵な笑みが、悪巧みをしている時のハルヒとダブってしまう。 ……しかし、これを見るとハルヒの笑みもエロく感じてしまうから不思議だ。 一人でそんな妄想に耽っていると、古泉が雑誌のページを捲った。 「ふむ、後半のページには少々扇情的なポーズもありますね」 ……なんだと? 「おぉ!これはいい!ヤベ、俺ちょっと……」 「……そういう生々しい発言はやめましょうよ、谷口君」 「……」 パラパラ…… 「……おい、キョン。何故ページを飛ばす?」 「……いや、ちょっと今週の『ホーリーワールド』が気になって……」 「……残念だな、今回は休載だ。さぁ、ページを戻せ」 「……あ、新連載の『5月のタイガー』を……」 目次、目次、と…………なんだよ!?なんで二人とも白い目で俺を見てるんだよ!? 「……古泉、こいつの行動をどう判断する?」 「はい。例え別人であっても涼宮さんに似ている容姿の女性が、男性から性の対象として見られるのが我慢ならないようですね」 「……中学生みたいなヤツだな……」 「はい。全く」 好き勝手に言ってんじゃねぇ!俺は人間ドラマ溢れる囲碁漫画が読みたいだけだ! 「はいはい」 「ツンデレツンデレ」 「くッ……!」 二人の冷ややかな視線を受けて、俺は雑誌を閉じる。表紙には例の娘の写真がデカデカと印刷されていた。 見れば見るほどハルヒに似ている……。 ……だが、やはり……。 「……しかし、アレだな」 「……やっぱりアレですね」 「……そうだな」 どうやら三人の見解は一致したようだ。 「「「こっちの方が胸が大きい!」」」 俺たち三人の声は見事にシンクロした。 「あ、やっぱりか?涼宮も小さかないけどなぁ……」 「……正直、これと比べるのはハルヒが可哀想だ」 「……ですよね」 胸のスペック的にはハルヒと言うより朝比奈さん(大)だな。 これで同じ女子高生だと言うのだから……全くけしからん! 「……何がけしからんのかしら?」 「……」 「……」 「……」 ……あっれ~?おかしいな?今妙な幻聴が聞こえたけど……。 「……はは」 渇いた笑い声を上げて、若干笑みを引き攣らせる古泉。そのこめかみには一筋の汗が伝っていた。 ……なんだよ?古泉?妙なリアクションやめろよ?まるで俺の後ろに鬼でもいるみたいじゃねぇか? 「……ごゆっくりぃ~!」 あ、コラ!逃げるな!谷口!元はと言えばお前が持ってきた雑誌が……! 「キョン~?団長様の質問を無視するとはいい度胸ね?」 「ひっ……!」 ……あぁ、分かってるさ。俺の背後で空気が歪むほどの殺気を放っているのが誰かなんてな……。 恐る恐る振り向いて、俺はそいつに声を掛けた。 「よ、よう……ハルヒ……」 「どうしたの?声が震えてるわよ?」 ……さて、一旦整理しよう。状況はこうだ。 我らが団長様にそっくりのグラビアを観賞して、更にデカい声で胸の大きさを比べていた。 …………うん、どう見てもアウトだな。 「一体、神聖なる学舎に何を持ち込んでるのかしら?」 ハルヒの怒りっぷりを見れば分かる。完璧に状況を把握されているらしい。 ……これは俺には手に負えんな……仕方ない、古泉! ハルヒの手綱捌きにおいてはかなり頼りになる、唯一の共犯者に視線をやると、既に耳打ち出来る位置までやって来ていた。 「……こういう時には意外と素早いのな、お前」 ただ、顔が近いぞ。 俺がそう言うと、古泉はいつものニヤケ顔をキリリと引き締めて、こう言い放った。 「……失礼、当然と言いますか、バイトが入りましたので僕はこれで……」 うん……いや、なんかそんな予感はしてたがな……。しかし、ここでこいつを行かせる訳にはいかない。今回ばかりは生命の危機すら感じてるんだ。 「しかしだな、古泉。たまには現実空間でどうにかしようとは思わないか?」 「ほう?例えば?」 「ここでハルヒの機嫌を直せば、お前たちはあのヘンテコな空間で命を賭けて戦う必要はなくなるということだ」 「……なるほど、一理ありますね。では、シミュレートしてみましょう」 『古泉君、キョンがあの雑誌持って来たのね?』 『はい、全くその通りかと』 『これは罰が必要ね』 『はい、全くその通りかと』 『この場合は極刑が妥当ね』 『はい、以下略』 「こんな感じですね」 「待て、それでは俺の命の保証がない気がするんだが……というか、持ってきたのは谷口だ」 「おや?僕がイエスマンに過ぎないことはあなたも知っているでしょう?僕には涼宮さんの言葉に頷くしか能はありませんよ?」 ……もしかして、俺がイエスマン呼ばわりしたことを根に持ってるのか? 「他に案はありませんね?では、僕はこれで」 「待ってくれ、見捨てないでくれ古――うぐっ!」 0円スマイルで立ち去る古泉を引き留めようとすると、いきなりハルヒに胸ぐらを掴まれ正面を向かされた。 「古泉君を巻き込むんじゃないわよ。どうせあんたが無理矢理誘ったんでしょ?このエロキョン」 ……見事な騙されっぷりだ……お前が将来あの手の男に引っ掛からないことを祈るよ。 しかし、このままでは俺一人が矢面に立たされる羽目になるので訂正だけはさせて貰おう。 「あのな、今回誘ったのは……」 「うっさい、エロキョン。言い訳するな」 「だから、取り敢えず話を……」 「変態」 「…………」 ……流石にカチンときたね。 なんだよ、古泉のことは勝手に信じる癖に俺の発言は全否定かよ。 「全く……こんな雑誌に載る馬鹿女のどこがいいのかしら……あたしでいいじゃない……」 「なんか言ったか?」 「変態は黙ってなさい!現実の女の子相手には何も出来ないヘタレの癖に!このムッツリスケベ!」 ――プチン、と堪忍袋の緒が切れる音を、俺は生まれて初めて聞いた。 「現実の女ねぇ……」 俺はわざとらしくハルヒをに視線をやり、くつくつと苦笑する。 「……何よ?」 「お前より、このグラビアの娘の方がいいな」 「何ですって!?」 「写真はお前みたいに口うるさくないからな」 人の話も聞かずに一方的にキレたりもしないしな。 「逆ギレする気?こんな馬鹿女のどこがいいのよ!?」 「こっちの方が胸もデカいからな!」 「な……!」 「見た目で選ぶ時に顔が似てたら、あとは……」 「…………」 「……って、おい?ハルヒ?」 「…………」 ……正直な話、こいつが世間一般的な女性のように自分のスタイルを気にするとは思ってなかったが……胸のことを言われた途端、ハルヒは黙ってしまった。 ……少し言い過ぎたか? 「…………」 「…………」 その余りの沈黙っぷりに俺が耐えられなくなった頃、 「……ふ……ふふ……」 ……ハルヒは静かに笑った。 「ふふふふふふ」 ……えーと、ハルヒさん?怒鳴って頂いた方が気が楽なんですが? 「……あたしをここまで怒らせたのはあんたが初めてかも知れないわ」 ……そんな誉れは全力で辞退させて頂きたい。 顔こそ笑顔だが、こいつの精神状態は誰に聞いても答えは一つだろう。もしこれで「嬉しそうですね」なんて答えるヤツがいたら、俺はそいつを自腹で眼科に連れて行ってやる。 ……これは謝らなければ、とんでもない事態になる。みっともなく土下座をしてでも今許して貰え! そう俺の本能が告げていた。 「あ、あの……ハルヒ……」 スマン、言い過ぎた!という言葉を続けようとして、 「どうしたの?何か言いたいことあるんじゃないの?」 その笑顔を見て固まった。 ハルヒは、あのグラビアみたいに不敵な笑みを浮かべていた。 そして、その笑みに凄惨な何かを感じた俺は、謝るどころか、声を出すことすら出来ず、 「……じゃあ、またね。キョン」 そう言って立ち去るハルヒを、ただ見送ることしか出来なかった。 ……俺はその後ろ姿を見ながら、この場にいない人間に対して一人で呟いていた。 「……よかったな、古泉。多分今日のバイトは長くなるぞ」 ……神人狩りのバイトが時給制かどうかは知らんがな。 ……これが、SOS団どころか色んな人間を巻き込んだ珍騒動の始まりだった。 続く
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……その日、茶々丸は頭に人形を乗せて登校してきた。 クラスの誰もが見慣れた人形だ。エヴァンジェリン所有の人形、『チャチャゼロ』である。 決してクラスの全員がその人形の本性を知っているわけでは無かったが…… それでも、今更その人形について突っ込みを入れる者は居なかった。 茶々丸の頭に載ってきたのは今日が始めてでもない。エヴァの頭の上に載っていた時もある。 順応性の高い3-Aの生徒たちは、すでにその光景を日常の中に組み込んでしまっていた。 「……しかし、何でお前も来るんだ。家で待ってればいいだろうに」 「ケケケ。家ニ居テモ暇ナンダヨ、御主人。マァ気ニスンナ」 主人であるエヴァンジェリンが睨み付けてくるが、ゼロは動じない。そもそも表情は変えようがないのだが。 一方、制服姿のままゼロを頭に載せている茶々丸も、無表情だ。 「先輩の従者」であるゼロが何の脈絡もなく言い出した、「俺モ学校ニ連レテ行ケヨ」という要求。 その求めに忠実に応え、素直に彼女を頭に載せ、そのまま日常生活を営んでいる。 「あら、教室で会うなんて珍しいわね。今日はアンタも授業?」 「ドウデモイイダロ。馴レ馴レシイゾ、ぱい○ん娘」 「なッ……! パイパ……ッ!」 「だめだぇ~、そーゆーこと言うたら~。黙ってればゼロちゃん可愛いのにー」 「ケケケッ」 ゼロがただの人形でないことを知る明日菜や木乃香も、軽くじゃれ合うだけ。 魔法使いの存在を公にしたくない彼女たちだ、それ以上深く突っ込んでくることもない。 そのまま、茶々丸と一緒に授業を受ける。茶々丸と一緒にクラスメイトを観察する。 丸1日、ゼロは3-Aを観察し続けて……そして、見つけた。 最初のターゲット候補。 「……イイ傷跡ダナ。出来タ時ハ、イッパイ血ィ出タンダローナ。 1本2本増ヤシタラ、モット綺麗ニナルゼ。キャハッ♪」 それは、体育の授業の跡、クラスメイトが一斉に着替えている最中のこと。 ?cmd=upload act=open pageid=19 file=DSCF03121.jpg すっかりクラスに慣れた「彼女」が、無防備に晒した背中。 その醜くも美しい傷跡に、ゼロは邪悪な笑いを隠せない―― 1st TARGET → 出席番号05番 和泉亜子 次へ亜子編―第二話―
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248 :リッサ ◆v0Z8Q0837k [sage ] :2007/12/19(水) 02 00 10 ID lUt+bHho 炸裂超人アルティメットマン 第一話 見よ!炸裂の巨大変身 登場巨獣 超ゴム巨獣 マノーン 「ああ、寒い寒い・・・ったく、この季節はやってられないなあ本当に」 僕、東条 光一はそういって今の今まで寝ていたうすっぺらいせんべい布団を折りたたむと顔を洗い 三畳一間の部屋の隅に押し込められたちゃぶ台を引っ張り出して食事の用意を始めた。 冬のこの季節、暖房もない中で朝早起きするのはとても辛い事だと思う、しかしこうしなければいけ ないのも事実だ、などと冷蔵庫から取り出した納豆と、炊飯器から取り出した温かいご飯を食べながら思う。 モルタル張りの三畳一間、狭くてぼろい上にアスベストも使っているようなアパートの中で僕が唯一安らげる 瞬間は食事時だけだった、だってまた今日もあの人たちがここに来るのだ…ほら、さんにい、いち…。 「後五分で食事を終わらせてください、それからすぐに現場に出発です!」 ばあん、と鍵がついているようでついている意味のないドアを開けて、今日もガスマスクを装着した男だか 女だかわからない彼ら…対超常現象特務機関…通称JCMの隊員が僕の元に仕事を持って押しかけてくるからだ。 「はいはい、了解しました。それではまた七分後に…」 「今日もよろしくお願いします、それから窓の落書きの方ですが、今しがた何とかなりましたので」 「それはどうもありがとうございました…それではまた」 もう一度ばたん、と大きな音を立ててドアを閉め、隊員は去っていった…僕は急いでご飯を書き込んで食べると 歯を磨き、お茶を急いで飲んで、アパート近くの貸しガレージに向かった。その際に一度アパートの窓を確認する。 「巨獣に暴力を振るう宇宙人はこの星から出て行け」 そんな風にかかれた赤い文字は綺麗に消えていた、夜のうちに隊員さんが消してくれたのだろう、ありがたいことだ。 でもどうせまた放っておけば同じように落書きは書かれる事になる、酷い日なら窓いっぱいに張り紙をされたり、石を 窓に投げつけられることもあるだろう。命がけで守ってあげた人々にそんな事をされるのは悲しい事だった、でもそんな 行為が日常的に行われている事がもっと悲しかった。 宇宙の銀河のはるかかなたにあるアルティメット星、そこから送り込まれてきた父は裏次元より現れる地球の侵略生物 通称 巨獣と戦い…僕が中学生のときにその大元である裏次元総帥を倒して、たった一人、苦しみながら死んでいった。 そして後釜である僕はその後すぐに巨獣の残党を狩るべく、二代目あるティメットマンに任命され…こうして日夜人々を 守るために、巨大ヒーローアルティメットマンとして戦っていた。 でも、その生活はあまりにも寂しいものだった 249 :リッサ ◆v0Z8Q0837k [sage ] :2007/12/19(水) 02 02 09 ID lUt+bHho 炸裂超人アルティメットマン 第一話 見よ!炸裂の巨大変身 そんなことを考え始めても仕方ない、そう思い直していそいで貸しガレージに向かう、シャッターの 開けられたガレージ内部では僕の愛車…マイティワン号のエンジンが先ほどのガスマスクの隊員さんに よって掛けられていた、僕は急いで運転席に乗り込む。 「それではさっそくですが今日の任務を…今回の巨獣の発生場所は吊下市東部の山林で…」 「はい、わかりました、それじゃあ…テイク!オフ!マイティーワン!!」 ゴオオオオ!!凄まじい音と共にエンジン部が火を噴く、それと同時にマイティワン号は空中めがけて 飛び出し、内部に搭載された自動ナビゲーションシステムで一直線に巨獣の発生した場所まで飛んでいく… 見た目は古臭い白黒のダッジだが、空を平然と飛んだりするあたりなかなか侮れない、父から譲られた宇宙製の強力な僕の相棒だ。 「後二十秒で現場に到着します、後は任せてください」 「はい、言われなくても解っていますよ…アルティメットマン」 隊員さんとはそれだけ会話をすると、僕はマイティイワン号のドアを開き、タイミングを計って空中からに地面めがけて一気に 飛び降りた。その目下には巨大な黒い烏賊に人間の足が生えたような生物…別名、巨獣が森林をなぎ倒しつつ、今か今かと僕の登場を待っていた。 「チェーンジ!!アルティメーットオーン!!」 僕は空中でポーズを決めながら変身の言葉を唱える、アルティメット星人特有の音声認識パスを認識した僕の体は一気に巨大化し。40メートル の巨体、炸裂超人アルティメットマンへと変化した。 「二ョー!!」 「アーッ!!」 僕は巨獣と正対してファイティングポーズを決めた、じりじりと間合いを詰める僕に対して巨獣はすばやく手の部分に当たる触手を伸ばす、鉄鞭の ごとく迫るそれを僕は振り払うと一気に間合いをつめ、腰部分にタックルをかました。凄まじい音と共にもんどりうつ二人、しかし僕はすぐさま立ち 上がると巨獣の頭をヘッドロックして強力な拳骨で殴りつける、二ョー!!という絶叫を上げて巨獣は触手で僕の腕を叩くが、攻撃を繰り返すほど その抵抗は弱まっていく、巨獣の頭部から血が噴出し、力がだいぶ落ちてきたころあいを見計らって僕は一気にヘッドロックをはずして腹部にストレート パンチを決めると、両手をクロスさせて、必殺技であるアルティメットレーザーを放った。 「アルティメーット!クロスファイアー!!!」 「二ョー!!」 アルティメットレーザーを真正面から食らった巨獣は、ボーン!!と凄まじい爆音を上げて吹き飛んだ、すかさず僕は両手から威力の低いアルティメット ファイヤーを噴出してその肉片を焼き尽くす、こうして後片付けも終わり、僕の今日の仕事はひとまず終了となった。 「お疲れ様でした、それではまた」 人間の姿に戻ってしばらくたたずんでいると、マイティイワン号にのった隊員さんがやってきた、僕は彼を本部に送り届けるとガレージに戻り、そして また呼び出しがあるまでひとまず休憩を取る事になる。 一日に最低一回は異次元生物の巨獣と命のやり取りをする、それが僕、アルティメットマンの主な仕事だった。 250 :リッサ ◆v0Z8Q0837k [sage ] :2007/12/19(水) 02 03 53 ID lUt+bHho 炸裂超人アルティメットマン 第一話 見よ!炸裂の巨大変身 マイティワン号をガレージに置くと、僕はその足で商店街へ夕食の買出しに走った。本当は 少ない給金を節約するためにスーパーで買い物をしたかったのだが、人が多いところに行けば畏敬 と恐怖の念をこめた人々の視線にさらされるのはどう考えても明らかだった。 「はいよ、今日も巨獣をやっつけてくれたお礼だよ!」 「すいませんね、いつもいつも…」 それにスーパーに比べれば少し値段は張るが、商店街の八百屋のおじさん達は僕を恐れずに接して くれるし、たまにおまけをつけてくれたりもする、数少ない優しい人たちだった。 「それじゃあな、また来いよ!!ヒーロー!!」 そんな言葉をかけてもらい、商店街を後にして僕はアパートへと向かった、自分自身でこういうの もなんだが、人にヒーローと呼ばれる事はとても嬉しい事だった。 化け物、怪物…子供のころからそう呼ばれていじめられる事は当たり前だった、母さんもそれが嫌 で僕が小さい頃に家を出て行方知れずになった。 暴力を振るう異星人は脅威に過ぎない、そういわれて日夜監視され、今まで家族二人で住んでいた 小さな家も、脅威に予算を使う事はないと言われて取り上げられた。 気がつけばアパートと、怪獣退治と、商店街を往復して過ごす日々の繰り返しが…父さんの死んだ日からもう十年も続いていた。 …人には言えないけど、もうしんどかった、ボスが死んだというのに毎日最低一体は現れる巨獣に対して、365日も戦い続けなくて はならないのは苦痛だった。 せめて腹を割って放せる友人が欲しかった、信頼できる恋人が欲しかった…それでも、それはこんな生活を送る僕には到底かなわない夢だった。 ふう…と小さくため息をつく、その表紙に買い物袋からオレンジが転げ落ちた、ころころ転がるそれは…一人の女性の足にぶつかって運動を止めた。 「あ…あの、その…」 「はい?……あらあら、これですか?」 困った事に僕は女性と話すことに慣れていない、どうにも話をしようとすると緊張して言葉がどもってしまう…女性の手に握られたオレンジをひったくる ようにとって、大きくお辞儀をして、できるだけ足早に通り過ぎようとした瞬間…。 「いえいえ、こちらこそです」 そういってお辞儀するその女性と目が会った…切れ長の瞳と長いお下げ、地味な服装と、それにマッチングするかのような優しく儚げな表情…一瞬で、彼女を そこまで認識したくなるぐらいに彼女の事を…僕は好きになった。 いうなれば一目ぼれという奴だろう、しかしその感情を抑えて、僕は急いでアパートに向かって走り出した。 「あ…あ、ありがとうございましった!!」 一応お礼を叫んでみるが、声がどもり、上手く発音が出来なくなる…最悪だ、きっと変な人だと思われるだろう・・・でも、でもそれは状況から言えば仕方の無い 事だった。それに優しそうな人でも、きっと僕の正体を知れば逃げ出すだろう…そんなことは今までにごまんとあった、女性なら余計にだ、だって僕は実の母さん にも逃げられたんだから…だから良かったんだ、こうして上手く放せずにあそこで別れれば、きっと辛い思いをしなくてもすむんだから…。 僕は必死にそう考えて、安住の地であるボロアパートに戻った、その目はうっすらと涙でぬれていた。 251 :リッサ ◆v0Z8Q0837k [sage ] :2007/12/19(水) 02 05 53 ID lUt+bHho 炸裂超人アルティメットマン 第一話 見よ!炸裂の巨大変身 夕暮れ時、僕は台所に立って夕食を作っていた、今日のメニューは奮発して買った豚コマで作った生姜焼きだ きっとコレを食べれば元気が出て、今日のことも…。 どんどん!!と僕の思考をぶった切るようにドアがノックされた、一体こんな時間に誰だろうと僕は考える… 新聞の勧誘、なんてうちには来た事もないし、それに隊員さんだったらもっと一気にドアを開けるはずだ。 「はーい」 また変な団体の人とかだったら嫌だなあ…そう考えながらドアを開けた、その先には、昼間であった、あの可愛らしい 女性が笑顔で鍋を持ちながら立っていた。 「こんにちは、隣に引っ越してきた亜佐巳というものです、よろしければこれ、食べてください」 「!!!へあ?あ。あの…あなたは…昼間の?」 「ああ!あのときのお兄さんでしたか、奇遇ですね」 言葉が出ない、そして気分が落ち着かない、そもそもなんでこんな安アパートにこんな人が引っ越してくるんだ?もう わけがわからない?ああでもとりあえず、きちんと挨拶しなくちゃ…取りあえず混乱しながらも何とか声を出した。 「あ、は、はい…自分は、自分は東条というものです、こちらこそ何かあったときはよろしくお願いします…それからひ、昼 間はどうもありがとうございました」 「いえいえ、ああそうそう、これ、特製の肉じゃがです、よかったら食べてください」 「は…はい、どうもありがとうございます…」 やっと上手く言えた、嬉しくて涙が出そうになる…ようやくその一言を話すと同時に僕は…ふと疑問に思ったことを聞いてみた。 「で、でもなんでこんな所に引っ越してきたんですか…僕が、僕が怖くないんですか?」 「いえ、全然。だって東条さんってヒーローなんでしょう?皆を守るために日夜戦ってるなんて凄いとは思うけど、怖いなんて 全然思えませんよぉ……あ、あれ?玉ねぎでも刻んでたんですか?ハンカチかしますか?」 「い…いえ…お気になさらずに…ぐず…う、うわあああああああん!!」 その一言に涙が出た、そういってくれる女性に会ったのは初めてだった…そして僕はそこで崩れ落ちて泣いた、彼女は終始心配そうに 僕を眺め、わざわざ自分の部屋からハンカチまでもって来てくれた…自分が凄くかっこ悪かったけど、それでもそばにいてくれる彼女に 何故か僕は、かすかにだが安息感を覚えた。 …こうして僕と彼女、阿佐巳 巴は出会った、この出会いが運命だったのか、それとも必然だったのかは、いまだに解らない。 第一話 END 252 :リッサ ◆v0Z8Q0837k [sage ] :2007/12/19(水) 02 08 25 ID lUt+bHho 炸裂超人アルティメットマン 第二話 気をつけろ!そのサンタは本物か? 登場巨獣 毒ガス巨獣ワッギア 変身巨獣ザヤッガー 「デアアアー!!!」 今日も今日とて僕は一人、アルティメットマンに変身して巨獣と戦っていた 今日の敵は大きな羽根を持った巨獣だ、羽にあいた無数の気孔から毒ガスを吹き 付けてくるが、空気より重い毒ガスは発射されれば下に流れてしまうのがオチだ 僕は出来るだけ距離をとると手を上空にかざした。 「アルティメット!ジャベリンー!!」 そう言うと同時に僕の武器であるジャベリンが手のひらの上に召喚された。僕は それを力いっぱい巨獣めがけて投げつける、まともにそれを顔面に受けた巨獣は毒 ガスを噴出するのを止めて、血を撒き散らして暴れる。僕はお構いなしに跳躍、一気に 敵めがけてドロップキックをお見舞いした。 「ウゴアアアー!!!」 ジャベリンごと頭部を打ちぬかれた巨獣はようやく絶命したのか動きを止める、僕は 振り返るとその死骸をアルティメットファイヤーで焼き尽くした。 今日もまた一日の仕事が終わる、でも今までの日とは…一日を生きる充実感というものが ここ一週間で大きく変わっている気がした。 「おかえりなさい!光一さん!」 家に帰ってみると、そこにはエプロンをした巴ちゃんが昼食を作って待っていた。 「いつも悪いね巴ちゃん、でも本当によかったのかい?」 「構いませんよ、だって光一さんはさっきもあんなに怪獣退治を頑張ってたじゃない ですか?そんな人のお昼を作ることなんて全然わるいことじゃあないですよ」 「ははは…それじゃあありがたくいただくとするよ…」 僕はそういって用意された食事を食べるべく、彼女からもらった座布団に座った、彼女が 引っ越してきてもう一週間になるが、ここまで彼女が僕に色々してくれるという事は、ある意味 妄想すら飛び越えていた。 彼女の前で泣いてしまったあの日から、彼女は僕の世話を焼いてくれた、大変なら…朝ごはん …作ってあげますよ…その一言がきっかけで、彼女はやたらと僕の周りの世話を焼いてくれる事になり… 気がつけば家事はおろか、朝も早くから朝飯の用意すらしてくれるという始末だった。 そんな彼女には言い表せないくらい感謝していた、こうして彼女と話すようになってから、だいぶ女性と 話すときにどもる癖も治ってきたのが嬉しかった。 「でも毎日悪いねほんとに…その分今日の午後は暇だから、どこか買い物に連れて行ってあげるよ」 「ええ!本当ですか?」 「うん、で、でもあんまり高いものは勘弁してね」 いつも彼女はご飯を作ってくれた分の代金を受け取らなかったので、お礼に何かを買ってあげよう、僕は 前々から計画していた事をようやく打ち明けた。嬉しそうな彼女の顔を見るだけで僕は本当に幸せな気分になれた。 253 :リッサ ◆v0Z8Q0837k [sage ] :2007/12/19(水) 02 09 57 ID lUt+bHho 炸裂超人アルティメットマン 第二話 気をつけろ!そのサンタは本物か? それから一時間後、変装した僕と巴ちゃんは大型ショッピングモールで買い物を楽しんだ といっても予算の都合上あまり彼女が欲しがるものを買ってあげられなかったのが残念だった… と言うか逆にセーターとコートを買ってもらってしまい、なんだか巴ちゃんに余計悪いような気がした。 「気にしないでくださいよ、私のわがままですから」 「ははは、どうもありがとう…」 その後も色々な店を巡りながら、僕らはくだらない雑談を続けた。彼女は普段在宅でデザイナーの仕事を しているらしく、自家にこもりがちだったため、環境を変えるために一人暮らしをしようとしてアパートに引っ越してきたと語った。 「私…昔から引きこもりがちだったから…憧れだったんです、世界を救う、子供達の誰もが一度はあこがれるヒーローに…」 「…ごめんね、その憧れが…本当はこんなにかっこ悪くて、貧乏なオジサンでさ…」 「そんな事有りませんよ!本当にかっこ悪い人間って…そんな風に身を粉にして人を助けたりしませんから!あんまりメソメソして るとカビはえますよ!!そういうのはよくないです!!」 「…うん、それもそうだね…よし!!もうめそめそなんかはしないぞ!!僕は!きっと巨獣を全滅させて見せる!!」 「そうそう、そのイキですよ!!そうしてる方が凄くかっこいいです」 こうして彼女と話していると凄く自分が癒されていく事に気づいたのはいつからだろうか?…心のどこかではいまだに彼女を信用できない までも、それでも、この幸せな時間が続いて欲しいと、彼女にそばにいて欲しいと願う自分の気持ちは…いままでの暗い日々とはまるで違う 光に満ちたものだった。 「はいはい押さないでね!はい!メリークリスマス!!」 そんなことを考えている目の前で、子供達にプレゼントを配って歩くサンタの衣装を着た老人が見えた、何かの宣伝か、それとも試供品の配布か? プレゼントを配って歩くサンタの周りには子供達が集まっていた。 「サンタさんかあ…ある意味この時期じゃあ僕なんかよりも…?」 「…どうしたの?光一さん?」 おかしい、何かがおかしい…直感的にそう感じた光一は、急いでサンタからプレゼントをもらった子供に近づくと、その手に握られたプレゼントを奪い取った。 「うわあ!!何するのさ!お兄ちゃん!」 「あ、アンタ!うちの子に何するのよ!!」 ヒステリックに声を上げる母子の叫びを無視して光一はプレゼントを踏み潰す、グシャリと音を立ててつぶれる箱の中から這い出してきたのはミミズのような 生物だった。 「貴様…コレは何だ!!何をたくらんでいる!!」 254 :リッサ ◆v0Z8Q0837k [sage ] :2007/12/19(水) 02 11 55 ID lUt+bHho 炸裂超人アルティメットマン 第二話 気をつけろ!そのサンタは本物か? 老人に詰め寄る光一、老人はにやりと笑うとこう呟いた。 「やれやれ…せっかくの作戦が台無しだなあ…失礼だと思いますよ、そういうのは」 老人はそう言うと同時に服を脱ぎ捨てた、その下に隠れていたのは正方形に恐竜の手足が 生えたような姿…間違いない、こいつは巨獣、しかも上級タイプの知能の高い強敵クラスだ ひい、というと同時に子供達はプレゼントを慌てて投げ捨てようとするが、箱から飛び出た触手が 絡んで手からはなれないらしく、子供達が次々に叫び声をあげた。 「うわああ!嫌だああ!!」 子供達は次々に悲鳴を上げながらぎこちなく歩き出し、巨獣の前に一列に並ばされた。巨獣はにやつき ながら手に持ったサーベルで子供を威嚇する…どうやらあのミミズ触手は触れた子供を操る力があるらしい。 「さあ降伏しなさいアルティメットマン!いや東条光一、コレは脅しではありませんよ。もしも下手に動こう とすればこの子達全員の舌を噛み切らせる事も可能なんですよ!!」 「……わかった、降伏しよう…」 「はははは!ちょろいものですね!さあそのまま一気に―」 ごん!!という鈍い音と共に巨獣の頭部に鈍痛が走る、一瞬にして回り込んだ巴が手に取った鈍器で思いっきり巨獣を 殴りつけたのだ。 「今です!!」 「うおおおおおお!!!チェーンジ!!アルティメットマイティ!!」 そう叫ぶと同時にマイティワン号がどこからともかく現れて巨獣を弾き飛ばした、轟音を上げて上空に舞い上がる マイティワン号。頼もしい相棒である彼のことだ、きっと被害を少なくするために敵を山奥にまで運んでくれたのだろう。 「ごめん巴ちゃん!この埋め合わせは必ずするから…」 そう言うと同時に光一は変身、一気に空に向かって飛び立った。 「まったくもう!アルティメットマスクだかなんだかしらないけどいい迷惑よ」 「本当、巨獣の殺し方も残酷だし、早く星にでも帰ってもらいたいわ!!」 騒然としたショッピングモールの通路は、おばさん達によるアルティメットマンの悪口によって喧騒を取り戻した。 勝手に地球に来て暴れまわる、核より身近な脅威で迷惑なデカブツ…それがこのおばさん達の大好きな昼のニュースでの 人気キャスターの公式見解だった。 許せない…あんなにも彼は頑張っていると言うのに、お前ら汚い豚どもの子供を助けるために、本気で命を捨てようとしたと言うのに…。 巴は怒りで顔が真っ赤になる…のを通り越して、顔が真っ白になっていた。 巴は一週間近くずっと光一と接してきた…そしてそうしているうちに彼の性格もだいぶ把握してきていた。憧れのヒーロー、アルティメット マンは酷く人間くさくて、とてもいい奴で…そして、冷たい人間達の仕打ちに対して酷く心を痛めていることもよく解ってきた。 最初はそんな彼の支えになれるという満足感と、淡い恋心が満たされていく感覚に喜び…そして次第に彼の受けた仕打ちに気づくにつれて 世間一般のアルティメットマンを嫌うものたちが許せなくなってきた。 …人類の全滅を世界に対して叫んだ異次元の化け物を、頼んだわけでもないのに毎日休みもせずに倒してくれる、謙虚で、やさしくて… そして唯一の存在に対してここまで彼らは侮蔑の言葉を浴びせる…そんな人間達が許せなかった。 「ねえ、おねえちゃん…お姉ちゃんはアルティメットマンの…友達なの」 怒りに肩を震わせる巴に対して、先ほど助けられた少年がそう聞いてきた。 「うん、そうだよお…お姉ちゃんはね…アルティメットマンの恋人なんだよ」 空ろな目で巴はそう答えた。 255 :リッサ ◆v0Z8Q0837k [sage ] :2007/12/19(水) 02 13 08 ID lUt+bHho 炸裂超人アルティメットマン 第二話 気をつけろ!そのサンタは本物か? 「…もしも次に会ったら、ありがとうって、皆言ってたって…言ってくれるかな?僕達…お母さん達は皆ああ 言ってるけど…すごく感謝してるって…アルティメットマンの事が大好きだから、頑張って欲しいって…」 「うん、でも大丈夫だよ…きっとアルティメットマンも、そういってくれる人がいるから、この戦いを頑張れるんだから…」 巴は笑顔で子供を安心させる、その言葉に安心したのか、子供達は喜ぶと手を振って母親の元に帰っていった。 「いい子達だな…でも、あの子達の親はどうしようもないんだよねぇ…だったらきっと、あの子達も将来ああなるよねえ… だったら、処分しなきゃ…」 濁った眼で巴は笑う、そして近くでアルティメットマンの悪口を繰り返すおばさんを見つけると、そのおばさんの頬を思いっきり叩いた。 ヒステリックに対応して掴みかかるおばさんに対して、巴はそれを軽くいなすと呟いた。 「あんた、巨獣より性格悪いよねえ…どうせ今日も暇で暇でここに来て、自分より見下せる相手が欲しいから…あの人の悪口言うんでしょ …今は許すけど、今意外はないよ」 そう言うと同時に、まるで獣のような目でおばさんをにらんだ、ひるんだおばさんが逃げ出すと、巴は空中をにらんだ…その瞳はまるでガラス 玉のように透明な色合いを放っていた。 「あと六匹か…意外にはやいなあ…それにしてもあの馬鹿…どうしてやろう?」 彼女には行わなければいけない使命があった、それは光一が戦う事と同じぐらい重要なものだと彼女には感じられた。 「やっぱり…邪魔者は、馬に蹴られて死ななきゃ、ね…うふふ、ははははは」 そんな言葉を呟きながら彼女の見上げる空は、気持ち悪いくらいに青かった。 256 :リッサ ◆v0Z8Q0837k [sage ] :2007/12/19(水) 02 15 38 ID lUt+bHho 炸裂超人アルティメットマン 第二話 気をつけろ!そのサンタは本物か? 「オアアアアー!!!アルティメット!!タイフーン!!」 「だから聞かないといっているでしょうがああ!!」 ところ変わって吊下市郊外の山林、適の巨獣に対してアルティメットマンは珍しく苦戦していた 敵の巨獣はこちらが風で攻撃すれば体から羽を生やして空に逃げ、炎で追い込めば水を出して攻撃をカウンターしてくる いうなれば変身する巨獣…そのような戦法で徐々にこちらを追い詰めているのだ。 「ホアアア!!!」「デアア!!?アーッツ!!」 翼を生やした巨獣は風の力を生かして一気にアルティメットマスクに体当たりを食らわせた、衝撃で吹き飛ばされた上に アバラがぎしぎしと傷むが、それでも構わずにジャベリンを召還すると、それを槍代わりにして敵に突進した。 「ウオアアア!!」「無駄アアア!!」 敵は一瞬で翼を巨大な十手のような武器に変化させる、ジャベリンを一気にへし折る気なのだろう。 それを狙ってか、アルティメットマン刺突するとみせかけてジャベリンを巨獣の腕めがけて投げつけた、そしてひるんだ隙に 顔面めがけて指二本での目潰しを放つ。 どしゅ!!という音と共に巨獣の目がつぶれ、巨獣が絶叫と共に倒れこんだその瞬間、突然アルティメットマンの頭の中に声が響いた。 (動くな) 少女のような、それでいて凛とした声を聞いた瞬間、アルティメットマスクの体は動かなくなる。 (まずい、何とかしなくては…) そう考えたとき、足元の巨獣が叫びだした。 「ひいい!!お、お許しを!!総帥さまあ!!!」 目の前の脅威ではない何かにおびえたような声で、立方体のような巨獣は叫んだ、そしてひときわ叫ぶと同時に、どしゅ!!と血飛沫 を飛ばして巨獣の体はバラバラになった。 巨獣の体は、内側から無数に生えたウニの棘のような物体で全身を刺し貫かれていた。 (…なんだ一体?粛清か何かか?) 全く釈然としない光景、しかも敵は総帥と叫んで死んだと来ている…親父が死んだとき、一緒に倒した裏次元総帥が生きていたとか そんな感じなのだろうか?しかしそうなるとここ数年のまるで目的の無いままに暴れまわる巨獣は一体なんだったのか…あるいは裏次元で 新たな権力が発生して、こいつのような上級クラスが送り込まれてきたのか…まるで釈然としないまま、アルティメットマスクは巨獣の死体を焼却した。 「あ、お帰りなさい光一さん、お風呂沸いてますよ?それともご飯がいいですか…」 「あ、じゃあ先にお風呂に入ろうかなあ…それから今日はごめんね」 「いいですって、あんまり細かい事を気にしてるとはげちゃいますよ?」 深夜、疲れ気味でアパートに帰ってきた光一を、巴はまるで本物の家族のように温かく迎えてくれた、母親がいるってこういうことなのかなあ…そんな ことを考えながら光一は風呂に向かう、巴はそれを笑顔で見送り、バスタオルなどの用意をすると…部屋の隅に置かれたノートに眼をやった。 「…ふう、気づかれなかったみたいね…」 ノートに書かれたのは吊下市の略式地図だった、そしてその地図上には…いくつかの、小さな穴がコンパスであけられていた、 そして最も多く穴の開けられた部分は、吊下市の山間部…今日、巨獣が謎の死を遂げた場所だった。 (動くな)(彼を邪魔したものには、死を与える)その付近にはマジックでそんなことが書かれている、数分ほど それを眺めた巴は、ポケットから赤いマジックを取り出すと、街の各所煮に次々と丸を書き込み、そして今度は黒い マジックで文字を書き始めた。 「あと六体もいるんだから…少しは彼の住みやすい世界に出来るよね…ふふふ…」 何かを書き込んでいく巴の瞳は空ろで、それでいてとても楽しそうな表情をしていた。 第二話 END
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昼休みの喧騒が、校舎を支配している。 俺はこの雰囲気は嫌いじゃない。普段は肩肘に力が入っている教官も、この時間は幾分か気を抜いているように見えた。 ―ともあれ、ようやく昼飯か。今日は、どうするかな。 食堂で済ませるなら、早めに向かわないと。日替わりランチの数は限られている。言うまでもなく、俺は弁当なんて持っちゃいない。周囲を見渡すと、数名の生徒があわただしく教室を出て行こうとしていた。 ―ふむ。今日はパンでも買って食うか。一人で食堂の隅に居座るのは―非常に寂しいしな…… 俺は教室を出るべく立ち上がる。そんな俺に声をかけてくるような生徒はいなかった。別に虐めにあっているわけじゃない。俺は先週このクラスにスキップしてきたばかり。まだ知り合いがいないのは、仕方のないことだ。 とはいえ、逆に仲良くしてくれる者もいない。まぁ、俺の場合は専攻が専攻だしな。これもまたやむをえないことだろう。それに、俺自身誰かと仲良くなりたいわけでもない。 「勝樹原さん、いま、ちょっといい?」 不意に背後から声をかけられ、俺は振り向いた。 歯切れよく、若干の緊張を含んだ、耳に心地の良い声。 「……ごめん。課題の事なんだけど」 長い髪をポニーテールにまとめた、細いシルエット。凛とした眼差しが、俺を見つめている。 「おとといの課外授業の課題、もう終わらせてる?」 彼女は確か―そうだ、高峰なぎさだ。ここに編入されて以来、彼女とは何度か課外授業で同じグループになっていた。 「いつごろ終わりそう……?」 「その課題なら、もう一通り終わってるけど」 俺も彼女も、課外授業ではいささか特殊な課程を履修している。その性質上、密接に関係を持っていた。 「今すぐ必要なのか?なんなら今から寮まで戻るけど」 一瞬、言葉を発するのを躊躇する。どうも、彼女と話すときは身構えてしまうな。男相手なら、こんなことはないんだろうが…… 「ううん。別に催促してるわけじゃなくて……ただ、あの先生、課題の提出日にはうるさいから。勝樹原くんはまだそのことを知らないと思って……」 意外と面倒見のいい性格なのか。もっとも、担任に言われて俺に忠告しているだけなのかもしれないが。 「やってるならいいのよ。私はただ……確認したかっただけだから」 「…………」 ―気にしててくれたのかな。編入以来、俺に厳しい物言いの彼女だが、面倒を見てくれているのも確かだ。 「あぁ、そういうことなら……ありがとう」 俺はなるべく友好的に答えたはずだったが― 「……ごめんね。余計なこといって。じゃ」 「あっ……」 彼女は一瞬気まずそうな表情を見せたのち、軽く会釈して走り去ってしまった。なんだよ全く……ここに来てからずっとこの調子だ。彼女は俺と会話こそすれ、常に隔意ありげな感じだ。悪意は感じなかったが……やっぱり新入りのヒヨッコと思われてるのかな? 「………まぁ、いいか」 そんなこと、いくら考えたって分かるもんか。俺は俺、彼女は彼女だ。関係ないさ。今はとにかく飯だ。さっさといかないと、パンまで売り切れちまう。 俺がようやく教室を出たとき、 ウォォォォン 突然、警報が校内に鳴り響いた。 ―なっ! ギクリと俺は固まった。廊下にいた生徒も同じように、人形のように静止する。 『生徒総員に告ぐ。状況開始、7-2〈セブン・ツー〉』 硬直中の俺の耳に、不意に大音量の放送が届く。 『繰り返す。状況7-2、これは訓練である。繰り返す……』 状況7-2か。あれは確か…… 『生徒は速やかに所定の配置に着け。状況7-2、繰り返す。これは訓練……』 考えてる場合じゃないな。廊下を見ると、全員が荷物を投げ捨てて駆け出していた。出遅れた俺も慌てて走り出す。 「どいてくれ!一種だ!」 人ごみを掻き分け、突貫する。校舎を出るため、階段を二段飛ばしで駆け下りた。 状況7-2。状況7は海上からの巡航ミサイルによる拠点攻撃を想定している。枝番2は核弾頭搭載の可能性を示している。これが実戦の場合、予備生徒は見殺しだ。コード識別表を渡されていないとあっては、状況を把握できない。即ち、待つのは死だ。 校舎を出ると、シェルターに向かう生徒を押しのけて俺は長い歩道を全力疾走した。学校の敷地を離れ、筑波研究都市の南大通りへ。戦時下の研究都市の人口は少ない。通りは静かだった。制服で全力疾走していれば、傍から見ても状況は分かるのか、日ごろはすぐにいちゃもんをつけてくる64式を持った歩哨も、今日は俺をスルーした。それにしても…… 「…なんでこんなに学校から遠いんだ?」 悪態をつきながらも、俺はなんとかハンガー横のプレハブに辿り着いた。 階段を駆け上がり、パイロット用更衣室に飛び込むと、既にパイロットスーツに着替え始めているバディの姿があった。 「遅いぜ“マーシー”。幼女の尻でも追っかけてたのか?」 ……この失礼極まりない優男こそ、俺の相棒―新沼ジュン。マーシーというのは俺のTACネーム。要は識別用の愛称だ。ちなみにこいつのTACネームは― 「……お前が早すぎるんだよ“スティング”」 「ハッ、違いねぇ!!何しろ俺は天才だからな」 「…………」 喋りながらも、新沼は素早くジッパーを閉めて行く。俺も負けじと制服を放り出し、パイロットスーツを引っ掴む。 「クソったれ。待ってろ!」 「ハハッ…お先に失礼するぜ」 俺の着替えを待たず、新沼は駆け出していった。 ブリーフィングルームには、既に教官が控えていた。教官は俺たちが揃うのを確認し、説明を始める。教官―古田ボブ上等兵曹は、謎多き人物だ。変装の達人らしく、出てくるたびに違う姿、違う声色をしている。性別すらも分からない。 「状況を説明するぞ。我々の同胞が、相模湾沖に展開中の敵艦隊にて、巡航ミサイル発射の兆候をキャッチした。攻撃開始はおそらく三十分以内、敵支援部隊の展開状況から、100キロトン級の戦術核の疑いあり。至急迎撃しろとのお達しだ」 「ボブさんよォ、いくらなんでもリアリティなさすぎだぜ……」 「バカ、今はそれどころじゃないだろうに……」 一応新沼をたしなめておく。とはいえ、俺も内心ではそう考えていた。いくら臨時政府の連中がバカでも、関東を火の海にして得るものは何もない事くらいは分かっているはずだからだ。 「二人とも、状況は理解したか?詳しい指示は空中で行う。さっさとハンガーに向かえ」 「了解です」 「うーい」 教官の声に急かされるように、俺たちは格納庫へと向かった。 ―格納庫では既に緊急発進態勢の三式機械化強襲歩兵、通称〈チヌ〉が二機、俺たちを待っていた。訓練生が整備を行うため、安全装置の解除に少し手こずっているみたいだが。 機械化強襲歩兵は、GSIが遺した《マンダラプロジェクト》の研究成果の一つだ。全高3メートル前後の人体を模した機体に、武装・装甲を施した汎用攻撃機。いま、俺たちが政府軍相手に何とか食い下がれているのも、この兵器があってこそだろう。 俺は、コクピットに滑り込み、即座にコンディションチェックを済ませた。この辺りの作業は完全に体に染み付いている。 『ピクシー1より、マーシーおよびスティングへ』 直後、管制室からの通信が入る。この声は…… 『これより誘導を開始します。誘導員の指示に従い、離陸地点へ進んでください』 「マーシー了解」 「スティング、りょーかい」 メタルエコーが効いているせいで声が掠れていたが、どうやらオペレーターはさっきの同級生のような気がした。 『誘導完了を確認しました。離陸を許可します』 「了解、離陸を許可」 俺は手短に答え、目の前のディスプレイを確認した。離陸後の指示は、これを通して送られてくることになる。 ―よし、いくとするか。 《コンバットシステム エンゲイジ》 戦闘補助OSの無機質な声が、コクピットに響く。単発プロップ特有の振動が伝わるのを感じ、俺はスロットル開度を一気に上げた。 第一話《終わるジェントルダッシュ》 ……… …… … 「にしても、核はねーよなぁ。どうせやるならもっとリアルな設定にしろってんだ」 「似たような内容ばかり訓練しても意味ないだろ。多分、そういうことだよ」 訓練を終え、俺たちはPX(食堂のことだ)で遅い昼食を取っていた。新沼はさっきの緊急迎撃訓練について熱弁をふるっている。 「百歩譲って巡航ミサイルはありだとしてもよ?核はねーよ核は。むしろ宇都宮あたりに空挺部隊が降下とか、揚陸部隊の上陸侵攻とか、もうちったぁ現実味のあるシナリオにしたって―」 「それのどこに現実味があるんだよ……」 俺はあきれて反論した。大体訓練なんてのは―― 「パイロット同士、仲がいいのね」 「えっ?」 突然、聞き覚えのある声がする。脇を見ると、すぐ近くに高峰なぎさが立っていた。 「お邪魔してもいいかな」 彼女はにっこりと微笑む。思わず視線が釘付けになった。 「どうぞどうぞ。ささ、こちらへ」 新沼は突然立ち上がると、即座に隣の椅子を引いた。さっきまでアホらしいことをのたまっていたというのに、呆気に取られる素早さだ。 「ボクたちに、なにか用かな?」 しかも、ボクときた。 「ありがとう。でも、用があるのは勝樹原くんだから」 俺に用事か。もしかして…… 「課題なら、もう提出したけど」 「あれとは別件でね、さっきの訓練で、管制側の問題はなかったか聞いて来なさいって教官が」 「問題か……」 「そう。なにか気づいたことはあった?遠慮なく聞かせて」 「ふむ……」 とはいってもな……管制の問題点が判断できるほど俺たちは飛んでないわけだが……。そういえば今の彼女はそこはかとなく機嫌がいいように見える。もっとも、新沼の前だからかもしれないが。 「的確に管制できていたと思うよ」 「そ、そうだった?ならよかったんだけど」 そう言うと彼女は微笑み、テーブルに手をついて顔を近づけた。透き通るようなシトラスの香りが漂う。 「じゃあ、本当に何も問題なし?」 「いいんじゃないか…?」 俺は多少ドキドキしながら、その顔を見返した。 「そう、良かった。何か気づいたらいつでも言ってね」 そう言い残し、彼女は去っていった。 「俺だってパイロットなのに……」 新沼は意気消沈している。表情が痛々しかった。 『予備生徒を招集。勝樹原翔および新沼ジュンの両名は、第二シミュレータ室に集合せよ。繰り返す……』 「ちっ、またかよ」 「……行くか」 シミュレータ室に集合……一体何が始まるんだろうか?小さな不安を覚えながら、俺たちは第二シミュレータ室へと向かった。 シミュレータ室には古田教官と、もう一人―― 「誰だよアイツ?」 「さぁ……?」 見慣れない女性がそこにいた。誰だろう?医療用の眼帯が痛々しい。制服って事は、軍人だよな。階級は教官より上の少尉で……ウイングマーク!? 「遅いぞ二人とも!」 「申し訳ありません。教官」 「あのー、ボブさん?遅くなったのは悪いが、それよりあの人は一体……」 新沼が気になるのも無理はない。ウイングマークが付いてるって事は、少なくとも一度は空に上がったことがあるってことだ。 「お前たちが気にするのも分かるが、まずは先の訓練の総評を述べさせてもらう。お前たちの操縦には―」 古田教官は訓練の結果に基づいてチヌの操縦に関する詳細なアドバイスを行った。それが一通り終わったとき、最後に教官は付け加えて 「気づいた点は以上だが、二人とも操縦技術以前の判断がまだまだだな。しかしその判断ってのは一朝一夕で身につく物ではない。だが、俺もスクランブル要員でな、お前たちにそれを満足に教えてやることは出来ていない」 教官はそこまで言うと、初めて例の女性仕官を手招きした。 「そこで、彼女の出番というわけだ。以後、二人の指導は“小鳥遊少尉”に変わっていただくことになった」 すると小鳥遊少尉と呼ばれた女性は、古田教官の隣に並んだ。 「気をつけ!小鳥遊ハルカ少尉である。自分より上官であられる!」 教官の号令に合わせ、俺たちは敬礼する。 「本日付けで筑波機械化歩兵団、第3戦闘隊付き教官を拝命しました。小鳥遊ハルカ少尉です。よろしく」 少尉は穏やかに笑うと、俺たちに答礼した。古田教官と違ってかなり優しそうだ。これなら訓練も少しは楽になるかもな…… 「訓練の最中以外は、楽にしていいわよ。そうそう、あたしのネームは“シルフ”。呼び捨てでかまわないわ」 ん…?待てよ……“シルフ”といえば……!? 新沼も同じことに気づいたのか、いつになく動揺していた。無理もない。訓練生のうちでシルフの名を知らぬ者はいないだろう。 「失礼ですが、もしや教官は……」 俺が尋ねようとすると、教官は一度、ため息をついた。 「ボブ……?やっぱりこの二人も知ってるのかしら?」 「そりゃあな。何しろ小鳥遊ィ……お前はここじゃかなりの有名人だぜ?進駐してきた政府の大軍勢を、たった30騎のチヌで追い払った第一次独立闘争の英雄。その内でも唯一の女性パイロットだってな。まぁ、あれだけ出撃しながら受けた被害が左目だけってのも奇跡だからな。その意味で、お前は特別な英雄なんだろ」 やっぱりそうか……。英雄を目の前にし、緊張のあまり手が震える。 「それはもういいから。ホントに楽にしててよ。あたしもそのほうがやりやすいの」 「では、お言葉に甘えて……」 新沼は早くも順応してやがる。どこまでもおめでたい野郎だ。 「じゃ、早速はじめるわよ。まずはあなたたち二人がどれほどの実力か、見せてもらうわ」 小鳥遊教官はシミュレータを指した。 「あなたたち二人同時に、あたしの相手、してくれるわね?」 To the next mission 《次回予告》 最前線で鳴らした俺達関東独立戦線は、前線の後退で筑波に撤退した。しかし、筑波でくすぶっているような俺達じゃない。 筋さえ通ればなんでもやってのける命知らず、不可能を可能にし巨大な悪を 粉砕する、俺達、筑波機械化歩兵団! あたしは、リーダー小鳥遊ハルカ少尉。通称シルフ。 突撃戦法と料理の名人。 あたしのような天才策略家じゃなきゃ、百戦錬磨のつわものたちのリーダーは務まらないわね 俺は新沼ジュン。通称スティング。 自慢のルックスに、女はみんなイチコロさ。 ハッタリかまして、ブラジャーからミサイルまで、何でもそろえてみせるぜ 待たせたな。俺こそ勝樹原翔。通称マーシー。 パイロットとしての腕はそこそこ 奇人?変人?でたらめだ! 古田ボブ。通称ボブ男。 穴掘りの天才だ。ノンケでもブチ貫いてみせらぁ。 でもコーヒーだけはかんべんな 俺達は、道理の通らぬ世の中にあえて挑戦する。 頼りになる神出鬼没の、特攻野郎 筑波機械化歩兵団! 助けを借りたいときは、いつでも言ってくれ。 次回、真理の王国と七人の抵抗者《レジスタンス》第二話、 《特攻野郎……?》に、テイク・オフ!!
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作者:柏陽煉斗 タイトル:第一話/出会いは逃避行の中に ときに。ふと私は思うことがある。 こう、運命ってのはなんでいいのと悪いのを纏めて運んでくるのか、と。 そんなことを考えている私。只今絶賛ピンチ中っ! 荒い息。飛び散る汗。全身が沸騰しそうに熱くなる感覚。 「はぁ、は――はぁっ……んぐ……」 そうは言っても別段色っぽい睦言なんかじゃない。ありえない。というか、彼氏がそもそもいない。 閑話休題。 そんな私が何故こんな苦しい思いをしているかって。それは走ってるからだ。 それも全速力。ああ、人間、恐怖の淵に追い込まれると限界を突破できるんだな、と他愛もないことを考えられるあたり、まだ余裕は残っているのかもしれない。 「って、んなわけないでしょっ……!あー、もう!なんで私がこんなことにーっ!」 誰に言うでもなく叫ぶ私。あ、やばい、今ので息切れた。 朝夕のバイトと、元からの運動好きで結構体力があるはずの私の身体もついに限界を迎えたか、よろめいてしまって。 「っ、きゃっ!」 間抜けなことに自分の足に引っかかって地面に倒れてしまう。 それもこれも叫んだからだ、私の馬鹿。 悔やみながらも起き上がろうと足に力を込める。が、しかし。 「つ……」 鋭痛。どうやら捻ってしまったらしい。今の状況ではこれ以上ないピンチだ…… 後ろを振り返る。全力全開で駆け抜けたはずの道。そこには―― 無数、とは言わないが、たくさんの人影。月明かりに照らされる落ち窪んだ容貌はとても不気味。 よろよろと足を引き釣りながら駆けているはずなのに、意外なほどに早く私に殺到してくる人影。 ただの女子高生一人相手にとんでもない人数で迫ってくるのだ。これは私じゃなくても怖いに違いない。 虚ろな瞳、どれもこれも似たような表情の群体がいつしか私の周りを覆い尽くす。 「ひっ……そ、それ以上、近づくなぁ!」 やばい。……凄く怖い。冷静な振りして考えてたけど、これだけ囲まれたら助からない。 もしかして、ここでなぶり殺しにされて――考えた瞬間、怖気に全身が震えだしてしまう。 がたがたと震えながら、腕を振り回し、必死に抵抗をしている……あまりにも情けなく弱々しい姿。 そんな私に一際近づくリーマン風の男。抵抗。その胸を重いカバンで思いっきりぶん殴る。 一瞬、よろ、とバランスを崩し。 「いやっ!?」 崩しながら、殴ったカバン、その腕をぎち、と冷たくおぞましい手指でつかんでくる男。 「や、だ……放して、放してよ……!」 最早、いつもの威勢を保てず恐怖にがたがたと震えてしまう私に顔を近づけてくる男。 もう、だめだ。冷たい息が喉元にふきかかる絶望的な感覚にぎゅ、と眼を閉じて―― 「――Pfeil」 ちょっと低めのテノールボイス。そんな状況でもないのに、あ、なんかいい声だ、なんて思ってしまって―― ――夜闇を駆け抜ける光の弾丸。否、矢。 声に薄く眼を開いた私の眼に映ったのは今しがた私に近づいてきていた男が横合いに倒れている姿。よく見ると、その胸には眩い光が突き立っている。 ざわり。影が揺れる。 「Gemetzel――」 響く、声。それは私から少し離れた路地。街灯の下。 闇の中、十字を切る法衣姿の少年がいた。ざわ、ざわざわ――無表情な人影達がその少年を一斉に見つめる。 そのまま、私から離れていく人影達。標的を少年に代え、歩み寄っていく。 「――Es ist Heiliger pfeil」 だが、しかし。掌を虚ろな人影達に向ける少年。直後何も無い空間から一斉に現われる光。 それは先ほど見た矢。その量は数十。近寄る人影ども一人に一本ずつ当てても更に余りある程度の量。 弾幕の如しそれが一斉に放たれ、十数の人影を地に平伏させていく。 地を、人影を打ち抜く花火みたいな光の舞。それを放つ少年の顔にかかっていた長い黒髪が一房ふわりと揺れ、整った彫りの深い顔が露になって。 その幻想的かつどこか運命的なシュチュエーションに。 こう、なんだ。私の乙女心が激しくスパークしはじめちゃった訳ですよ。 多分、真っ赤に染まっている顔で、少年を見つめる私。 それに気づいたのか否か。私の方にゆっくりと歩み寄ってくる少年。 どきどきが高まり、少し潤んだ眼――さっきのが怖くて泣いてた訳じゃないんだからね!――で、じいと見つめてしまう。 間近。先ほど私に襲い掛かろうとした男の横あたりに立つ少年。 「……あんた、無事か?」 無愛想な声。ちょっとだけ落胆しながら、軽く頷いて。――そういえばこの子、日本語喋れるんだ、と何故か嬉しくなりつつ。 「ならよかった。……ったく、統括組織のあの嬢ちゃんは、もっと周りのことに気を払えってんだ。これだから月ヶ谷のオヤジに俺が呼ばれたりする羽目に……」 独り言をぶつぶつと呟くどこか不機嫌そうな少年。なんかこう。見た目美人なのに、口調がいただけないというか、似合わないというか。そんな感じだ。 「え、えと。その、助けてくれてありがとう」 「んぁ?ああ。まぁ、死ななくてよかったな」 そっけない台詞。なんかこう。さっきからずたずたにされてく乙女心。もっとこう、心配してくれてもいいんじゃないってのは我侭な台詞なんだろうか。 少しどんよりしながら脱力。やっぱりさっきまでので緊張してたんだろうか。顔を落とし、ぐったりと座り込む。 「んで、立てるか?まさか腰抜けたってんじゃないだろうな?」 「そ、そんな訳じゃないわよっ!ただちょっと足が――」 ちょっと怒り気味の台詞は最後まで言うことができなかった。 座りこんだ私をそのまま抱き上げるようにしながら飛び出す少年。そして、先ほどまで私が居た其処を陥没させるぐじゅり、潰れた拳。 いつの間にやら蘇った、最初にやられて転がっていたはずの男が、手から骨やらぐじゅぐじゅになった肉やらを見せながら立っている。 「ちっ……ったく。式具無しじゃあまともに殺すのも難渋かよ。てかタフだな、おい」 呆れたように肩をすくめ。またさっきの呪文みたいなものを呟き、虚空から光の矢を撃つ少年。あろうことかそれを腕で受け、更に見るに耐えない姿になる男。 一切の痛痒を感じていないかのように飛び掛ってくる男に舌打ちしながら少年はひょいひょい跳ねてよけ回る。 「ちぃ……重い荷物があると面倒だな……うおっ!」 少年が驚きの声を上げた理由は、その荷物とやらから――即ち私からの攻撃。顎をがぃん、と拳で突き上げる。 「なんだよ、いきなり」 「お、女の子に重いって言うなー!」 「……ああ、なるほど」 なんで外見よくて中身こんなにだめだめなんだこの子は! そんな暢気なやりとりの最中にもがんがん殴りかかってくる元気な男。 「しっかし、このままじゃきっちぃな……ってか、へばりそうだぜ……」 少年も疲れてきたのか、苦々しい声を出す。 「男なら根性で気張りなさいよ!」 「へばりそうになる原因から言われると疲れるんだぜ?」 顎に拳が伸びる。今度はかわされた。畜生。 「んーじゃ……ちょっとだけ我慢しててくれよ?びっくりするかもだが」 不穏な台詞を吐いて――あろうことか。男に向かって体当たりを仕掛ける少年。 驚きに声も出せないままに、距離がほぼゼロになる。 振り上げられた男の拳。飛び込んだばかりで対応しきれない少年の、その顔面に向かって拳が振り下ろされる。 起こるであろう惨劇に、私はぎゅう、とまた眼を閉じる。 「Schltz――」 そして、数瞬後。硬いもの同士がぶつかりあう、痛々しい音が響く。 それは、決して、人間の肉がぶつかり合った音ではなくて。 うっすらと瞳を見開き、そして、見る。男のぼろぼろになった腕が光で出来た壁のようなものに突き立っている光景を。 「って、えええええ!?」 「おう、貫かれずにすんだか。僥倖僥倖」 暢気に呟く少年は私の驚きなんか気にも止めずに、掌を男の心臓あたりに押し当てる。 「光、杭、んで心臓。弱くたって吸血の輩にゃあ、これが覿面だろう?」 直後、響く爆音。槍の如くなった光が男の背中から突き出して―― その肉体が砂のようになって消滅していく。見ると、他の倒れ伏した人影も姿を消し去っている。 「この魂に哀れみを。アーメン」 そう言いながら、私を抱えながら片手で十字を切る少年の顔は、本当の神父のようで。 やっぱり、外面だけは格好いいな、と不覚にも赤面してしまったのであった。 「……あー、やっと終わった」 そんな乙女な気分をぶち壊すかったるそうな台詞。 私を地面に降ろして……って、そういえば、今までこう、横抱きにされていたんだよな、とか、結構鍛えてるのかなとか思考に顔を上気させる私の横で大あくびする少年。 「統括組織の嬢ちゃんもそろそろ本丸潰した頃だろうし、ひとまず任務終了ってとこかねぇ……」 何か呟いた後、改めて私を見てくる少年。何故か悪戯っぽい顔になって―― 「で、今度こそ腰抜けたのか?」 「だから、違うって言ってるでしょー!」 アッパー。今度はあの壁みたいなのを張られた。畜生。 「悪い悪い。んで、痛めたのは足だったか?」 そう言って、捻った右足をさすられる。痛みに僅かに顔をゆがめてしまうのは止められなくて。 「――Es ist Heiliger wind」 また、呪文。当てられていた掌がぽぅ、と光を漏らして。靴ごと引っ張られた足を暖かく包み込んでくれる。なんか気持ちいいかも。 はふ、と息をついている間に、光は小さくなっていき…… 「ほい、これで大丈夫だろ?」 ぐりぐりと少し乱暴めに足を捻られる。それに抗議しようとして…… 「痛くない……」 不思議なことに、捻挫したことによる痛みや腫れがすっかり引いてしまっている。 「ならよし。んじゃ、気をつけて帰れよ」 「……へ?」 そう言って立ち上がって歩き出していく少年。その様子に唖然として固まってしまう私。 しばらくして漸く正気に戻った頃には、すでに視界から消え去った法衣。 重いって言ったことを反省させるとか、怪我どうやって治したのかとか、女を一人でこんな場所に置いてくのかとか、色々あったけど、何より。 「……名前くらい教えていきなさいよ、あの馬鹿男ー!」 夜闇を切り裂くは私の叫び声―― 結局、帰り着く頃には日が変わっていて。 親に怒られ、姉に冷やかされ、冷えたご飯を暖めて食べ、そして、風呂に入り眠りにつく。 眠りにつくはずだったのだが、事件への興奮と、少年への愚痴だのなんだの考えていたら結局夜を明かしてしまい。 最悪のコンディションで今ここ――学校の席、ホームルーム直前の時間に至る。 昨夜の少年にも負けない大欠伸。慌てて口を閉じて、ぐったりと机に身を預ける。 隣の女生徒が何か話しかけてくるようだが聞こえない。私は今眠いんだ。 断片断片で聞こえた他愛も無い話――昨夜、羽織とか言う同級生が行方不明になったとか、転入生が来るとか――をBGMに本格的な眠りにつこうとする私。 「ほら皆、静かにしてー 朝の連絡を済ませないといけないからね」 年若い男の声――担任の外国語教師だ――を聞いて、どうにか身を起こす。 行方不明事件について他いくつかの注意を述べた後、ふと、面白そうな笑顔になる。 「さて、最後に一点。転入生を紹介します」 あがるどよめき。私も驚いた、というか冬まっさかりなこの時期に転校? 「ほら、入ってください」 そして、扉が開かれる。こつこつと足音低く入ってくるのは、黒い長髪、白い容貌。女っぽくも見えるが、強いまなざしに彫りの深い顔。 先ほどの驚きが嘘のような、更なる驚き。紅くなる頬に高鳴る心臓は昨日の焼き直しか。 そこにいたのはまさしく昨夜の法衣姿の少年であった。 教室から黄色めな声が飛ぶところを見ると、こう、なんかどす黒いものが沸き立ってくる気がするが今の私は気にしない。少年の顔をじぃ、と見つめていると、ふと、少年がこちらに気づいたか顔を向けてくる。 「さて、自己紹介をしてください」 少年は、私に一瞬かったるそうな苦笑いを見せると、黒板に向き直り。 瀬布 黒兎 4文字を綺麗に書ききって。 「クロトとでも呼んでくれ。んじゃ、よろしく」 まったく顔に似合わない気だるげな声でそう言い放ったのであった。 ←戻る →進む 目次に戻る 小説一覧に戻る
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グランドオープニング プレイレポート レース前 夜明け前の道を、バイクに乗った一人の女性が走っている。 その高い知性を窺わせる怜悧な顔に表情は無く、ただ黙々と街の郊外にある工場を目指し進んでいく。 工場の中はひっそりとしていた。彼女を待っていた年端もいかない少女が黙って彼女を案内する。 その工場の奥に、彼女の愛車が、彼が最後に手懸けた最高傑作があるのだ。 「それを早く持って行ってよ。マックス兄さんはソイツに取り殺されたんだわ。悪魔よ、そのパンツァーは」 最愛の兄を失った少女は、仇を見るような目で、彼女とそのパンツァーを見送った。 ソレは、彼女が火を入れると身を捩るように狂おしく咆哮をあげる。明らかに正規のパンツァーを凌駕するその性能。 ついこの前、たった2ヵ月前のことを思い出す。マックスは、彼女に夢を語った。 いつか、最速のパンツァーを作りだす。そして、彼女にそのパンツァーに乗ってもらって、大陸最速を証明してもらいたいのだと。 「子供っぽいよね、でも、それが僕の夢なんだ」 彼女――フリーデリケ・パウルスは、生まれ変わった愛車の力を感じ、一人つぶやいた 「マックス・・・・貴方は、私に何を望んでいるというのですか?」 それに答られる者はもういない、街角の街頭テレビがミッドガルド大陸一周レースの開催を告げる会見放送を彼女の耳に告げていた。 一人の少女が、慌しく鍵を開けようとしていた。その豪奢な衣装をまとった彼女に似合わない、使用人達が出入りする裏口。 「…でも、ここしかもう残っていないのよね」 彼女は今まで使ったこともない無骨な鍵束から合うカギを見つけようと必至だ。 もう、みんな気づいているだろう、屋敷の使用人達が私を見つけようと必死になっている筈だ、早く、早くここを出ないと・・・・。 「お嬢様」 声を掛けられ、彼女は鍵束を落としてしまう。声をかけた女性は短く溜息をつくと、少女が落とした鍵束を拾い上げ、優雅にその中から鍵を見つけて扉を開けた。 「み、見逃してくれるのかしら、ルー。あなたがお父様にしかられてよ?」 「はい、エヴァンジェリンお嬢様。貴方様がご手配なされた車は既に整備が終わりました、との報告を頂いております」 夜の闇に走り去った自分の主を見送る彼女・・・ルー・ソリテールは、少女にしなかった報告について考えていた。もうこのお屋敷にいることもない。彼女の本当の仕事を、これから行うのだから。 「すぐにまた、会えますわ、お嬢様。それに、あんな豚とお嬢様は不釣り合いでございました」 大勢の記者達がその会見の内容をいち早く伝えようと必死になって質問をしている。会見の内容も重大なものだが、なによりも、その会見を行う男が重要だった。彼こそは、今まで謎に包まれてきたヨルムンガルド社の社長、ガイスト・ジルバーシュタインその人なのだから。 「へぇー、社長さんが出るんだ」 あくび交じりに返事をするその少女に、苦笑交じりでパトリック・ウォンは返事をする。 「そうそう、それで君に調査を依頼したいんだよね~」 その少女は小さかった。人の膝ぐらいまでしかない少女に、大の大人が何をお願いしているのか、そう思う者もいるかもしれない。だが、この世界に生きる者ならば不思議には思わないだろう。 その背中に可愛い羽根を生やしたその少女は、フェアリーである。 「ふ~ん、それでレースに出るのね!でも、なんで?」 「ガイストさんもレースに同行するみたいだからね、参加している方がいいのさ。それに、わが社の最新型ヴィークルを提供するよ」 最新型と聞いた彼女は、今までが嘘のように眼を輝かせた。 キラキラと目を輝かせたそのフェアリー・・・エミリア・F・ジェフリーの顔には、すぐにでもこの退屈なお話を終わらせ、そのヴィークルを見たいと書いてあるかのようだった。 「うん、うん、その仕事を受けるわ!だから、早く私のヴィークルを見せて頂戴!!」 会見会場には、奇妙な沈黙があった。記者たちは一言もガイストの話を聞き洩らすまいと、ペンを進める。 世界を揺るがす、一大ニュースが起こるのだ。 『…今や、ミッドガルドの東の果てから西の果てまで、機械神の御威光が届かぬ地はありません』 『私はかつてからの夢を実現すべきであると思い立ったのです。すなわち、ミッドガルド大陸一周の夢を!』 「…で、あたしにそのレースの監視役をお願いしたいって言うのかい?」 はい、と答えるのはヨルムンガルド社の社員である。グラズドヘイムで最も安全とまで言われる料亭にいる彼の額には、汗が滲んでいる。 最も安全な場所というのは外から来る者に対しての話。 中が安全ということは、彼を助けてくれる者はここには入ってこれないということ。 夜の女王と呼ばれる目の前の女性は、彼をつまらなそうに殺すかもしれない脅威だ。 だが、それだからこそ、この方に頼まなければならない。 「前代未聞、史上空前の規模のレースです。どんなアクシデントが起こるものか予想もつきません」 「そこで、レースの妨害行為によって選手が死亡したり、妨害者の乱入を阻止することを御頼みしたいのです」 静かに彼が話すのを聞いていたその女性――カーメラ・ディ・カーニオは、少しだけ、その唇に笑みを浮かべた。 男はようやく、生きてここを出ることができるかもしれないという希望を見つけたような気がした。 「ふぅ。まぁ、ルールを守らせればいいってことでしょう。その仕事、請けましょう」 男を優しそうに見つめ、微笑む彼女。 自分の脅えが彼女に伝わっていたことに初めて気づいた男は、そそくさとヤシマ名物の饅頭を取り出し、彼女の前に差し出すのであった。 『資格は問いません!誰よりも早くこの大陸を一周できると思う者はこの素晴らしいレースに参加してください!』 『優勝者には、100万ゴルド相当の、わが社が威信を掛けて製造した最新型ヴィークルを進呈します!!』 記者たちが、我先に会場を出ようと飛び出して行く。すごいことになるだろう。 このレースを制した者は、冒険家として名誉と莫大な報酬を得るが、何よりも、後の世まで歴史に名を残す偉業を果たすのだ。 夜の酒場に、若い男性の声が反響していた。酔っているのかその顔は赤くなっていたが、その眼には好奇心と、前人未到の偉業に挑戦する自信が溢れていた。 「バッカおめぇ、俺なら絶対に80日間で大陸を一周して優勝できるっつーの!!」 酒場の男たちが下品に笑う。夢を語るばかりのこの男に何ができるのか。その男は、とてつもなく運が悪いのだ。 外に出れば、何らかのトラブルに巻き込まれる。パンを落とせば逆さに落ちて、必ず下には本がある。 生来の器用さからか、何とかかんとか生きてる男。そもそも、彼は天涯孤独で出自すらはっきりしない。なのにいつも、俺は世界を一周して見せると、一般人には大きすぎる夢を語るのだ。 「なら、賭けようじゃないか。全財産を、賭けるぜ。出来なかったら、おまえは一生おれの子分だ」 「おうともさ、乗った!!」 酒場の喧噪が一層激しくなる。賭けだ、賭けが始まったのだ。だが、成功する方に賭けるものがあまりにも少ない。 ・・・・これじゃ、賭けにならないな、と胴元が思い、その手に掲げていた帽子を下げようとしたときだった。 ひらりと、豪華な扇子が投げ込まれた。 「わたくしも、その話に乗りますわ」 酒場には絶対に似合わない、貴族の御令嬢が、そのほら吹き男の元へ、男たちが作る道を当然のように進む。 『優勝者には、100万ゴルド相当の、わが社が威信を掛けて製造した最新型ヴィークルを進呈します!!』 「ミッドガルド一周・・・・素晴らしいではありませんか、この偉業を達成すれば、結婚などという煩わしいイベントに巻き込まれることなどないでしょう!!」 なんだなんだと騒ぐ男たちをおいて、エヴァンジェリンはクリスと呼ばれる男の手を取った。 「さあ、まいりましょう。ヴィークルは私が用意します。善は急げですわ」 クリス・ゴダールはいきなり現れた少女の手を握り返し、満面の笑顔を浮かべて店を飛び出した。 「おうともさ! 絶対に優勝してやるぜー!!!」| 第一話 プレイレポート
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―人の心はどこにあるのだろう。 そんな小さな疑問が始まりだった。 疑問は徐々に大きくなり、 やがて、強大な力を生み出した。 科学とも魔術とも違う。 高次元粒子と呼ばれるそれは、戦争を変えた。 人の心の力を糧に、自らを剣へと変える術式。 折れない剣。 強靭な心を持つものは、数々の戦場で無敗。 ただ、自身が兵器と知りながらも それでも戦い続け、結果、折れない剣は歪みつつあった。 血に染まる空を見上げ、 新たな敵を補足する。 『はあ・・・また来たのか。』 まだ華奢な身体が発光を始める。 その瞬間、宙空から無数の剣が出現した。 そっと腕を中空へ差し出し、目を閉じる。 この一撃で、さらにまた人が死ぬ。 そう思いながらも、戦いを終わらせるためには、と。 彼は腕をソッと振り下ろした。 すまないと心の奥底で軋む何かを感じながら。 瞬間、空が割れた。 宝剣の一撃は多くの命を奪った。 燃える大地の中、少年は誰に言うでもなく呟いた。 「執行者・・・か・・・そんな権利が俺にあるとでも・・・」 ―15年後 ―学園都市桜門郊外 「さって、とー。今回の仕事内容は・・・」 そう言って【柊優子】は手帳を眺めた。 依頼主は桜門学園治安維持部。 依頼内容は【感染源の捕獲】 補足として生死は問わないと書かれてある手帳の一部を彼女は引きちぎり、闇夜に手放した。 「はあ、桜門の執行部はどうにも手薄のようね。何かあったのかしら」 愚痴りながらも彼女はライフルの照準あわせに入った。 【感染源】 それは15年前の戦争後に突如現れた一種の病気だ。 感染方法は未だに不明。 ただ、分かっていることと言えば 1.その病原体は人や動物に感染すると急激に組織を変換させ、未曽有の化物へと変えること。 2.化物に理性はなく、猪突猛進であること。 3.通常兵器ではまったく歯がたたないこと。 これぐらいである。 1と2に関しては別段驚くことでもない。 すでに蔓延してから15年も経ってる今になってみれば常識になっていた。 問題は3だ。 最近の感染源は妙な進化をしたらしく、ここ数年通常兵器はやや効くからまったく効かないモノへと変わった。 まあ、マシンガンやらミサイルやらが効いていれば化物なんて呼ばれないのが実情なのだけども。 そんなことを思いながらも私は光学スコープを凝視し続ける。 感染源は猪突猛進であること。 桜門から脱走したってことは、必ずこのルートを通らなければ外に出れない。 そして、そのルート上にそびえ立つ大きな時計塔の中腹当たりに私は陣取っている。 「石田君、そちらはどう?来た?」 無線機に向かって問いかける。 しばらく反応を待ってみたけども、無線機からは何も聞こえない。 私は少しイラつきながらも出来る限り優しく問いかけた。 「い・し・だ・く・ん?寝てるんじゃないでしょうね?」 無線機のスピーカー越しにガタッと音がした。 たぶん、寝てたんだろう。 無理はない。 かれこれ3夜目の襲撃なのだから、眠たくなるのも無理はない。 そうこうしていると、無線機から気だるそうな声が聞こえた。 『大丈夫だ。こちらからは敵を認識している。もう少しでそっちからも見えるんじゃないかな』
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原作者です。 思う所があり、削除させていただきます。
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一人の男がコーヒーを飲んでいた。男の名はディアボロ。かつて組織「パッショーネ」のボスだった男。無限の死のループに陥り深い絶望を味わいつづけ、そしてある場所にたどり着き、その旅路の果てに再び絶頂の日々を取り戻した。 「(今日も特に何もおきなかったか。まあ、組織と俺にとって厄介なことが起こらないのはいいことだが・・・)」 そう思いながらコーヒーを飲もうとしたそのときであった。彼は空間におきているある現象を見つけた。 「・・・ん?」 それは、空間に開いた隙間。まるでスティッキーフィンガーズのジッパーのように、そこに隙間が開いているのだ。 「(これは・・・まるでスティッキーフィンガーズの能力だ。しかし、あれは殴った物体に対して効果を発揮する。が、この隙間は・・・まるで空間そのものにジッパーをつけたみたいだ。)」 警戒しながらその隙間をよく見るディアボロ。念のため、何が出てきても大丈夫なように距離をとる。 「(何だ・・・?あの空間の狭間には無数の目のようなものが見える。しかも両端にリボン・・・今までの誰の記憶にも、どの漫画のページにもなかった能力だ。一体、誰が、何のために。)」 ボヘミアンラプソディの能力で実体化させたこの世界において、全ての物事は書き記された通りに進む。が、これに関する出来事は書かれていないはずだ。 『書かれていない(はずの)出来事が実体化された世界で発生している』 それが何を意味するのか。彼は薄々理解した。 「(信じがたいが・・・何かがこちらの世界に干渉しようとしているのか?そんなはずは・・・いや、俺たちは荒木飛呂彦という男に漫画という形で『辿る運命が決められた』のだから、異世界というものが実在しておかしくない)」 ディアボロは頭の中でどうするべきかを考えていた。そのときであった。 「あらあら・・・警戒心むき出しね。」 「・・・・!!!」 そのスキマから言葉が聞こえてきたのである。 「(あの隙間の奥に何者かがいる・・・発した言語からして日本人か?)」 「・・・(相手にはこちらが見えている・・・それだけならまだ遠くから見ている可能性があるが、こちらの表情が見えているということは・・・)」 普通なら考えもしないだろう。一体何があるのかわからないスキマに向かっていくことなど。 そしてディアボロはスキマの前で動くのをやめた。 「・・・自分から向かっていくなんて、何を考えているのかしら?」 「(おそらくさほど距離はないはず!)」 ディアボロは何を思ってそうしたのか・・・なんとキングクリムゾンをスキマに入らせたのだ。 「・・・?」 スキマの中の存在は疑問に感じたに違いない。普通ならスキマから距離をとろうとするだろう。さっきのディアボロもそうだったのだから。 『普通は』そうするかも知れないが、彼はさまざまな意味で普通じゃない。スキマの中の存在は彼が普通ではないことを考えていなかったのだ。 「・・・・!?何!?」 スキマの中の存在は突然服を何かにつかまれた感触に襲われる。だが、その方向には何もいない。 ・・・その存在から見れば。 そしていきなりキングクリムゾンにつかまれたスキマの中のいた存在は引っ張り出され、ディアボロの前に姿を現す。 なんだか変わった服を着た(ディアボロの服よりはずっとましだが)なんだか異様な雰囲気をかもし出している金髪の女性。 ディアボロはその女性に対して質問をする 「お前か。あのスキマを開いた犯人は?」 「・・・どうやって私を引っ張り出したのかしらね?」 「質問を質問で返すな。お前は疑問文には疑問文で答えろと学校で教えてもらったのか」 「あいにく教えてもらってないわ。」 警戒心があるのかどうかよくわからない回答をしたこの女性。一体なんなのだろうか。 「(仕方ない・・・質問に答えないのなら。)」 瞬間、世界が灰色に染まりやがて元の色を取り戻す。女性はまったく動かない。それどころか、周辺から音すら聞こえない。 ディアボロは背後に回り、懐からケースのようなものを取り出すとそこから一枚のDISCを取り出す。それが目的のものであることを確認すると、なんと自分のおでこに押し込む。 そのCDのようなものはディアボロの中に入っていった。 その直後、音が再び聞こえ出し、女性はディアボロが視界から消えたことに気がつく。 「あら?「悪いが気を失ってもらうぞ」きゃん!?」 ディアボロが何をしたのかわからずに女性は気絶し、なんと女性の顔がパラパラとめくれだす。そして、本になってしまった ディアボロが彼女を本にした理由はただ一つ。彼女から『記憶』という情報を得るため。 「(さて、こいつの記憶にあのスキマの正体やこいつの住む場所に関する情報が書かれているはずだ、見せてもらうぞ。)」 「(幻想郷・・・博麗大結界・・・妖怪・・・神・・・妖精・・・・巫女・・・月の住人・・・博麗神社・・・紅魔館・・・なんなんだこいつ、今までの誰にもない記憶を持っている・・・)」 ページをめくるにつれ、ディアボロの中にはさまざまな感情が、考えが、疑問が入り乱れる。 「(・・・西行妖、月での戦い・・・どうもこいつのいる世界は、俺たちスタンド使いがに存在する世界とは遥かに違うらしい。俺たち人間が幻想だと思っていたものが、こいつの住んでいる場所にはある。)」 何枚ものページをめくり、だんだん彼女が住んでいる世界が何なのかを理解していく。 「(幻想となったものが、こいつの住んでいる場所である幻想郷にたどり着く。そしてこいつ自身も人ならざるもの、妖怪である・・・そしてこいつの住んでいる場所では、スタンドとはまた違う力を持つものがいる・・・)」 そしてどんどんページをめくり、どんどん幻想郷及びそこの住人についての知識を手に入れていく。 「(弾幕ごっこなるものがこいつのいる場所では存在する。誰も殺すこともなく争いごとを解決する方法として多用されているようだ。・・・考えられないな)」 そして彼は確信にたどり着く。彼女の情報について書かれているページを見たのだ。 「(八雲紫。幻想郷の創設にかかわった者の一人であり、境界を操る程度の能力をもつ・・・・・境界を操るだと!?)」 ディアボロはその能力に驚きを隠せなかった。なぜなら境界を操れるということは・・・ 「(生と死、危険と安全、そんな風にさまざまな物事の境目を操れるということは!こいつの能力は使い方しだいでどんな能力にも勝ることになるということを意味するのか・・・!)」 ディアボロは自分でも気づかないうちにいつのまにか冷や汗をかいていた。そして冷や汗をかいていたことに気がつくとそれを手で拭き取った。 「(命令を書いておかなければ。この能力が俺に影響を与えること・・・それは完全に何もできなくなることを意味してもおかしくはない)」 ディアボロはヘブンズドアーの能力を使って命令を書くことにした。内容は「本人の許可なしにディアボロの境界を操作できない」 「ディアボロが視界から消えたところから今までの記憶を全て忘れる」 「5分間質問に正直に答える」である。 「(直接攻撃や弾幕なるものならスタンドを使って対処することができる。しかし、境界の操作は事前に手をうっておかないとどうしようもない。・・・・そういえば)」 ディアボロはスキマを見る。両端にリボンがあり、無数の目が見える。・・・要はさっきと変わらないままである。 「(あの向こうはこいつがいる世界の、幻想郷なる場所につながっているのだろうか。まあいい。)」 ディアボロは彼女の正面に移動すると、スタンド能力を解除する。 「それにしても、変な服装と髪ねぇ・・・斑点模様がある髪なんて始めて見たわ。」 ディアボロを見た彼女・・・否、八雲紫(やくもゆかり)はそう呟く。 「どんな服を着ろうが構わないだろう。髪については何も言うな。」 ディアボロは返事を返し、そしてすぐ言葉を続ける。 「もう一度聞くぞ。あのスキマはお前があけたものか?」 「ええそうよ。・・・!」 自分が発した言葉に驚く紫。そこをさらにディアボロが質問する 「お前は何者だ?」 今度は質問に紫は答えない。ディアボロはすぐに気づく。 「(境界を操作したか?しかしもう遅い。それに無効にできたのはあいつが気づいている『5分間質問に正直に答える』という命令だけのはずだ)」 「危うくどんどん喋りそうになったわ。私に何かしたでしょう?」 「どうだろうな。もしそうだとしても教えるわけにはいかないしな」 警戒する紫に対し、ディアボロは表情を変えずに返事をする。 「しょうがないわね。こうなったら・・・」 「殴りかかる気か?それとも・・・あれと同じスキマにでも落とすきか?」 それをきいてますます警戒心を強める紫。 「・・・・・・・・」 「・・・・・・・・」 沈黙の睨み合い。数秒後、紫は不敵な笑みを浮かべる。 「おもしろいわね。いきなり私を引きずり出したり、私を強制的に質問に答えさせようとしたり・・・」 ディアボロは疑問に思う。普通なら相手を警戒するのだが、なぜ平然と不敵な笑みを浮かべられるのか。 「(相手はこっちの能力をまったく知らない。あの反応を見る限り、スタンドには気づいていない・・・・まさか、妖怪に普通の人間が勝てるはずがないと考えているのか。)」 「(彼の能力は一体何なのかしら?時間停止とはまったく関係のない能力も持っているみたいだけど・・・やはり、私たちとは違う力を持っている?)」 数秒の沈黙の後、ディアボロは紫に尋ねる。 「どうする気だ?俺をどこかに連れ込むつもりか?」 「その通り。大丈夫よ。悪いところじゃあないわ。」 「もしそうだとしてもそれは勘弁だな・・・お前を倒してでもそれは止めさせてもらうぞ!」 「なら倒されないように応戦させてもらうまでよ。」 ディアボロは後ろに跳躍し、スタンドをだす。全身の色は黄色。姿は逞しい体つきをした人間のようで、顔はまるで三角形のマスクをかぶったような形をしており、背中にはタンクのような物体。そして、腕には時計のマーク。 本来彼が使うスタンドであるキングクリムゾンとはまた違うスタンドだった。 「(これを出してもなお気づかない・・・スタンドは一部を除いてスタンド使いにしか見えないのは変わらないようだ。)」 紫は動かない。すると、紫の周囲からさまざまな色の光の玉が出現し、ディアボロに向かってくる。 「(私をスキマから引きずり出し、いつの間にか私が勝手に正直に質問に答えるようにした・・・彼が使う能力がどんなものかわからないけど、油断はできないわね)」 「(これが弾幕か・・・なるほど、まさに字の如く『弾の幕』だな。だが、回避できないわけではなさそうだ)」 飛んでくる弾幕を、よける必要があるものだけを見切り回避する。 ディアボロとて何回もさまざまな敵と戦ってきたのだ。どれを回避し、どれを回避してはいけないのか。自然と身体が判断して動く。 弾幕を回避しながらディアボロは次にどうするべきかを考えていた。スタンドで反撃するか。それとも相手の攻撃が止んだ隙に一気に倒すか。 「(相手はたくさんの弾を撃ってきているんだ。へたにスタンドを動かせば・・・これだけの数だ。回避できずに弾が当たるかもしれない。)」 「(しかしこのままじゃあ、いつ集中が切れてもおかしくない。あまり使いたくないが使うか・・・。)ザ・ワールド」 世界が再び灰色に染まり、元の色を取り戻す。音は響かなくなり、弾幕も紫も、他のものも動かなくなる。 時よ止まれ-その中でただ一人、停止した世界をディアボロは動く。 ディアボロは弾幕に当たらないように移動し、紫の背後を取るとザ・ワールドの回し蹴りを紫に命中させた。 「(一応手加減はしておいてやった・・・まだマシに思え。)」 直後、突然弾幕は動き出し、紫はディアボロが視界から消えたことと背後から強烈な痛みを受けたことに驚く。 何故視界からいきなり消えたのか。何故それと同時に強烈な痛みが背後から襲ってきたのか。ほんのわずかな時間のあいだに、一つ目の答えはでた。同じような能力を持つ者を知っているからだ。 「(時間を止めた・・・?そうでもないと、こんな現象はおきないわ。でも背後からの強烈な痛みは何なのかしら・・・?)」 「意外と痛そうな顔をしていないな。体は見た目以上に丈夫というか。少し驚いたぞ」 妖怪というものが人間を超えるものだということを薄々感じたディアボロ。 「あら、そういう表情をしていなくても痛いものは痛いのよ?」 そういいながらディアボロと距離をとる紫。 「だろうな。痛みを感じないやつなんているほうがおかしい。」 その言葉に返事を返しながらも接近するディアボロ。 ディアボロは今度は紫とある程度の距離を保つ。近づきすぎると出現した弾をよけられない。離れすぎると回避しにくくなる。紫も距離をとり、再び弾幕を放つ。 「(まったく、面倒なものだ。数だけでなく、弾の動きもこっちの行動を妨害する。うまくよけていかないと、一撃くらったらその後もどんどんあたり続けるな。)」 「(さっきのいきなり消えた現象が時間の停止だったとしても、それと同時に起きた背後の痛みが何なのかわからない。普通の人間が妖怪に強烈な痛みを与えるのは不可能に近い。だとすると・・・やはり彼は私たちとはまた違う能力を持っている?)」 弾幕を回避しつつ策を考えるディアボロ。彼にはある一つの考えがあった。 「(あの弾幕・・・そういえばあいつの後ろからは放たれてきていないな。背後をとればなんとかできるかもしれない。)」 ディアボロは懐からケースを再び取り出し、一枚のDISCを取り出す。そして一枚のDISCを頭から抜き取ると、すぐに取り出したDISCを入れる。 「これでどうだ!」 ディアボロのその言葉。紫はなんとも思っていなかった。だが、動こうとしたとき、紫はあることに気がつく。 「(身体が動かない!また私に何かしたみたいね。けれど、こんなもの・・・)」 「(さてどうしようか。始末するならさほど難しくはないのだが・・・ん?)」 ディアボロは足元を見る。いつのまにか亀がディアボロの足元に来ていた。ディアボロは亀を手に取り、ふと思う。 「(いつの間に・・・そういえばあの弾幕は俺の足元を狙っていなかったな。まあ、弾の数から考えて足元を狙う意味なんてあまりないのかもな・・・。)」 自分から注意がそれたその隙を狙って紫はディアボロの足元にスキマを開く。ディアボロはそれに気づくが、もう遅い。スキマに亀ごと落ちて行く。 「うおあああああああああああああああああああ!」 ディアボロはこの状況を打開する方法を急いで考える。スキマのなかということはこのまま閉じ込められる可能性もあるのだ。 「(どうすればこの状況を切り抜けられる・・・?3つの考えから1つを選んでみるか)」 3択―ひとつだけ選びなさい 答え①ディアボロはスタンドを駆使して無事戻ってくる 答え②あの女が気まぐれで助けてくれる 答え③無理。現実は非情である。 「(・・・まて、このシーンは確か・・・ってそういう場合じゃない。とりあえずクラフトワークで俺と亀を固定しないと)」 ディアボロは自身と亀を固定することで落下を免れようとした。・・・・のだが、やはり現実は非情である。落下が止まったのとほぼ同時にスキマが閉じてしまったのだ。 「・・・・・・・・・・・・・・・・答えは③・・・か。」 ディアボロにはあのスキマを開くことができない。それは同時に、もう『ディアボロの大冒険』の世界に戻れないことを意味していた。 ディアボロはクラフトワークの発動を諦め、手に持っている亀とともにスキマの中を落ちていく。 スキマが開き、ディアボロと亀はその中に落ちていった。
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「…なにを悲しんでいる…。」 「え?」 突然、ネギの背後から聞き覚えのない男の声が聞こえてくる。 ネギは恐る恐る振り返ってみるが、そこにはこのかの遺影がぽつんと置かれていただけで、人の影も気配も見当たらない。 「貴様は悲しむのではなく、笑うべきだ。」 しかし、声は確実に目の前から発信されている。 「幻聴…?あれ…?ぼく…おかしくなっちゃったのかな…?」 よくよく考えれば最近のネギは、十分と呼べるほど睡眠をとっていない。 自分でも異常なほど疲れているのはわかっていた。が、まさか幻聴とはと… え? ネギは言葉を失った。 これはもう幻覚などという次元ではない。 夢だ!そうか、これは悪い夢なんだ!だってあり得ない。遺影から 手 が 生 え る な ん て 手が生えているというのは少し語弊がある。正確にいうならば、手首に遺影が溶け込んでいると言うべきか。 「至近距離にこんなにも美味そうな『謎』があるのだぞ?」 突然現れた奇妙な手の持ち主はネギを見下しながら訳の分からぬことを言い始めた。 多分、これ以上頭が混乱することは…絶対…一生無いだろう。 「…だ、誰?」 混乱する頭を必死に整理し、言葉を吐き出すネギ。 「我が輩か?おお、そうか。人間は名乗らねばわからんのか。」 混乱するネギをまるであざ笑うかのように淡々と話し続ける怪物。しかし、 「我が輩の名は脳噛ネウロ」 男の顔はあっという間に 「『謎』を喰って生きている…」 人の顔から 「魔界の生物だ。」 化物の顔へと変わっていった。 この化物を何かにたとえるならば「インコ人間」 大きな口がその生物の気持ち悪さをより引きだてていた。 ネギには夢か現実かはわからない。ただ一つだけわかっている事がある。 目の前の男は人間ではない…。 この怪物が現れた事により、これからどんなことが起こるのかはまだ誰もわからない。 しかし、ネギは知ることになる。 偽善と屈服で覆い隠された3ーAの素顔とその闇を… 場【げんば】